いまそろの今

今更で候。インプットしてアウトプットしてわかった気になる。

荒野の怠け者

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「黙って言うことききな」


言われた通りにしていれば
食うに困りもせず
時も穏やかに流れるというのなら
それもよきかな。

言われた通りにやるくらいわけはない。
何事も無く平和に日々過ぎてゆくに越した事はないので
指示どおり言われたとおり仕事に勤めることにした。

そうこうしているとそのうち
「言われなくても動け」と言う。

なるほど。
幼い頃より何事も率先してやるのは
良いことと教わった。
「言われたままやれ」と言われたからといって
その言葉の通りに事に当たるは不覚である。

そうかそれではと
いささか自律的に働いてみる。
すると今度は「勝手な事するな」と言う。

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これはとんちか

いや、とんちではない。

なるほど、これは真理だ。

つまり
アクセルが過ぎても
ブレーキが過ぎても困る
可もなく不可もなく
良い加減でやって欲しいということである。
かゆいところに手の届く
もうちょっと気のきいた働きをしろということである。

力を入れすぎず
かつ抜きすぎず。
適切でなくては人は物一つ
つかめないのは道理である。

強すぎれば握りつぶす
弱すぎれば落っことす

なるほど合い分かったと
その意を汲んで良い加減を心がける


するとそれは良い加減ではなく
「いいかげん」だと言う。



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指してるそばからルールの変わる将棋を思い浮かべて
このようなものかと、ふと思う。
いかに計略を巡らそうとも
そばからルールが変わってはお手上げである。

ルールは対局相手が決める。
はなから勝ち目はない。
あろうはずがない。

盤上に勝機を見出さんとしたのがそもそもの間違いである。
真に勝たんとすれば計略は盤上に巡らすのではなく
盤外に求めねばならなかった。

相手の湯呑みに下し薬でも盛るか
盤上の照明に細工して落っことすか
はたまた第三者に介入を願うか

どん欲に勝利の為にと汚いことに手を染めたくもなければ
立ち会い人に同席願って公正なる審議の手筈を整える
政治力もない

それが私の限界であった。

正々堂々という事にとらわれ敵を頼みにしすぎた。
相手がルールを変えるのを承知していた勝負なれど
まさか本当に行使するとは思わなかった。
相手を見誤った。
何故見誤ったか。
それは自分を見誤ったからに他ならない。



かくして誉れ高き「怠け者」の称号を賜り
「まとも」という彼の地をあとにする。

「怠け者」の楽園がぺんぺん草一本と生えぬ
荒野のさいはてにあると聞く。

胸のエンジンは高鳴り
荒野などひとっ飛び
するのはたやすい気がした。

いざ、はばたかん。
アクセルを目一杯開ける

するとどうしてか
ブレーキも目一杯になる。
はて。そんな風にいじった覚えはない
知らぬ間にそうなってしまったらしい。

機能は一切が正常に動作し
エンジンは威勢良く唸りを上げる。
しかし一向に進みはしない。
身体は飛ばねば
ただのお荷物である。

しかたなく徒歩で行く事にする。荷が重い。

よく考えてみるまでもなく
荒野は怠け者に最適ではない。
ただでさえどん欲さに欠けるというのに
そのうえ過酷である。

はずみで歩き出してはみたものの
思いのほか荒野はどこまでもどこまでもつづく。
くどい。
次第に消耗してくる。
怠け者に意気地はない。
ほどなく力尽き乾いた大地に崩れ落ちる。
それは嫌なので早いことわずかな岩陰に横になる。

横になったついでにひと寝入りすることに決めた。

夢うつつに
かかるはめに陥れた
世を
呪ってやろうかと思ったが

いまいち盛り上がらず止めにした。

かといってあきらめるのも意気地がないので
朦朧とした頭でなんとか知恵をしぼってみる。
考えてみれば「世を呪う」とは漠然とし過ぎる
特定の人物に狙いを定めるべし。

それにしても誰を責めたものか
不思議と思い浮かばぬのは
朦朧どうこう以前に頭がカラッポなのか
はたまた心が美しい為か

あるいはあまりに対象が多いので
かえって狙いが定まらぬのか。
それだけたくさんいるのなら
適当にぶっ放したところでいずれかに当たるであろうが
それではあまりに美学がない。

ならば誰も彼もに仕返しするか
それでは今度は節操がない。
なにより面倒極まる。

こちとら怠け者である。
それを考慮願いたい。
徒歩圏内で全て済ませたい。

それなら
いっそのこと「自分」でケリをつけたらどうか。
『自分』に仕返しする
これは名案ではないか。

所詮ヤツはイモである。
それこそ仕返しもたやすく隙だらけならば
セキュリティーもザルで弱点も心得ている。
徒歩0分で仕返せる。

コペルニクス的発想の転回とはこのことか。

しかしいくらイモの私とて無体な仕打ちを受けながら
ただ黙ってはいない。
その借りは返させてもらう。
「仕返しの仕返しは仕返し」という方程式において

果てしなく遊べることになる。
意図せず永久機関を作ってしまったらしい。

そうだ
この荒野の真っただ中に家を立てることにしよう。

永久機関を使って地下深くから水を汲み上げ
ここを緑豊かな土地にしようと思う。